荷造り

 隣の市に住むおばあさんから、相談の電話がかかってきた。昨年の12月にヤケドをしてお医者さんに治して頂いているらしいが、いっこうに良くならずに今でも衣服がすれると痛いのだそうだ。色々経過を教えてくれたが、結局は食が細くて治る力がないってことだ。若い人ならいざ知らず、老人が普段一杯薬を飲んでいて、胃腸がいいはずがない。そこにヤケドをしたのだから、ストレスでますます食欲もなくなるだろう。案の定、胃薬も病院でもらっているという。  僕ならまずおばあさんの消化器系を元気にして、肉芽が内部から作られるような漢方薬を使う。表面に薄皮を張らしてもちょっとの伸展ですぐはがれてしまう。それよりも内部から肉を盛らしてくるのがいい。漢方薬にはそんな処方がある。そう説明すると是非治したいから薬を送ってくれと言うことだった。翌日薬を作りクロネコヤマトで送るように荷造りをしているときに、おばあさんから電話がかかってきた。僕がおばあさんに説明したことをお医者さんに言ったそうだ。するとそのお医者さんは、「ずっと私もそのことを考えていた。病院でそんな薬を出してあげる」と言ったそうだ。5ヶ月近く、消毒だけして自然治癒を待っていたのだろうが、老人にそんな力はない。体力を補ってあげないと若者のようには何も治らない。僕の薬局も病院の処方箋を調剤しているから分かるが、病院の薬にその種のものはない。そのお医者さんが何を頭に浮かべてその様に言ったのか分からないが、まさかビタミン剤なんかではないだろう。まだ作っていませんかと尋ねられたから、まだ用意しているところですと答えた。本当はほとんど荷造りを終えかけたところだったが。何故おばあさんが敢えてお医者さんに言ったのか分からないし、お医者さんが本当におばあさんのことが気になってずっと体力を付けようと思っていたのかどうか分からない。電話を置いた後、何となく哀れだなと思った。僕の処方が絶対役に立てるかどうかは分からないが、おばあさんは早く治るチャンスを失ったような気がした。  おばあさんにとっても、お医者さんにとってもとるに足らないことかもしれないが、僕はおばあさんに相談を受けたとき必死で考えた。見えないところを見る力は僕にもないが、大切なことは、表にはなかなか出ないものかもしれない。教訓に富んだ出来事だった。