天性

 股関節を患っている方は、幼い時からずっとの方が多い。若い時は筋力も柔軟性もあるから、それほど困らない方もあるが、それでも運動をするのはハンディーがある。大人になるにつけ、不快症状は増し、痛みと同居しなければならなくなる。  もう3年くらい僕の漢方薬を飲んでいる女性がいる。最初、相談に来た頃はかなり痛みがきつくて、階段はかなりの障害物だった。仕事柄東京に行かなければならないことが多かったらしいが、いつまで行けるのだろうかと内心不安だったらしい。僕の漢方薬が功を奏し、現在は痛み止めとも縁が切れたし、どこへでも飛んでいくくらい元気になったらしい。(本人談)  症状経過はともかく、僕がその方に圧倒されるのは、症状が軽くなった今も、3年前も変わらず「メチャクチャ明るい」ことだ。僕より数才年上だから、40年はそのトラブルで不自由を味わっているはずなのに、表情や声に全く陰性のものがない。大好きな仕事が出来なくなるかもしれないと言う予感の中でも、その方はいつも笑っていた。声も大きくしっかりしていた。一番快活な頃、一番美しかった頃、どんな女生徒だったか分からないが、恐らく彼女なら今と同じように快活に笑っていたのではないかと思う。  たまに彼女のように、ハンディーを抱えても絶えず笑っている人がいる。何ら作為的なものでなく根っから笑っているのだ。それは、目を見れば分かるし、口を見ても分かる。まるで無防備に屈託なく笑う。僕の方があげなければならない元気をくれる。きっと回りの人達に一杯元気を配っているに違いない。何が彼女をそうさたのか知るよしもないが、僕は何故か天性のものを感じる。後天的に逆境の中で作られるのだろうか。僕など壁にぶち当たれば、嘆き悲しみ取り乱す方だから、彼女のおおらかさにはとうていかなわない。それがもし彼女の生い立ちの中で積み重ねてきた人徳なら、ショックだ。あまりにも心がけが違いすぎる。せめて天性のものだとしたら、こちらは救われる。持ち合わせている人と、持ち合わせなかっただけの人間の違いでしかないから。  少しびっこを引きながら、大きな声と笑顔で入ってくるが、圧倒的な陽気で空間が覆われる。それに引き替え僕の心の中は陰気が立ちこめ、精神が足を引きずっている。