一秒

 嬉しい知らせが届いた。いつものように短い文章だが、喜びは十分伝わってくる。十月十日、よく頑張ったと思う。お母さんになるべく少しずつたくましくなっていった。関西人のシャイの典型みたいで、斜に構えながらもちゃんと物事を見ていた。  僕は1人の女性の復活を漢方薬を介してずっと見せてもらった。何も出来なかった女性が、遅ればせながらに、普通の女性がたどる道を歩んでいる。家から出られるようになり、仕事をし、恋愛をし、結婚をし、ここで赤ちゃんを得た。○○ちゃんがいれば幸せという言葉で、空白の数年間が新しい命で満たされたことを感じる。  過敏性腸症候群は青春の落とし穴だ。いくつも用意された中のひとつだ。誰がいつ落ちるか分からない。浅い穴もあれば暗くて深い穴もある。深い穴の中で、もがけばもがくほど、身動きとれなくなる。穴から出るには、ロープを投げてもらうか、はしごを降ろしてもらうしかない。ロープを投げる人は、医療関係者かもしれないし、家族かもしれない。ロープやはしごは、現代薬かもしれないし漢方薬かもしれない。でも一番大切なことは、穴に落ちた人が声を上げることだ。大きな声を出して、助けを求めることだ。そうしないと地上の人は誰も気がつかない。分かってくれないと嘆くのではなく、自分を、自分の苦しみを訴えることだ。お腹のことで、青春を無為に過ごすのはもったいない。ほんの一秒勇気を出して、助けてと叫べば、以後何十年の解放が待っている。