運転席

 運転席で、柔らかい言語の往来を聴いているとなんだか眠りを誘われるようだった。日本人の方に、お嬢さん達ですかと尋ねられたくらいだから、彼女ら3人が日本人的な顔つきなのだろうか。又あるフィリピンの女性からはタガログ語で話しかけられたから、フィリピン系の顔立ちなのだろうか。結局は東洋人はよく似ていると言うことで落ち着いたのだが、せめて似ているもの同士、仲良くありたいものだと、狭い車の中で、地球規模のことを思っていた。  この国が彼女らの国の数歩前を走っているとしたら、どうぞ追いつかないでと言いたい。追いついて、追い越していくのなら良いが、この国が抱えている問題をそのままコピーしないで欲しい。追いつく前に、どちらかに舵を大きく切って、固有の価値観を大切にして、その上で発展して欲しい。誰もが、どこもが、どこかの国のように世界中を席巻して牛耳るような国になる必要はない。謙遜とか奥ゆかしさとかは、アジアの人独特の心のありようだ。そういったものをほんの刹那の物質的欲望で失って欲しくはない。  この国で青春の一時期を過ごしたことを、よい想い出として国に持って帰って欲しい。屈託なくしゃべり続ける異国の言葉は、恐らく得たことより与えたことが大きいことに気がついていない。その柔らかい言葉と心が心地よい。