理由

 大したものだ。偉くなると理由などいらないらしい。人を苦しめても殺しても、理由なんかいらないらしい。とってつけたような理由でも構わないのだ。裁かれないから、理由はいらないのだ。言いがかりで人を責めても自分は責められないのだ。ところが、そんな人間を選び作るのは、裁かれる人間なのだ。殺される側の人間なのだ。新聞には数字でしかその死を伝えられない人達が、何を言っても許される人間を作ってしまっているのだ。撃たれて道端で被写体になってしまう人達が、とんでもないことを口に出来る人間を作るのだ。嘘が嘘にらない人達を作るのだ。こんな不平等な世界は見たくないと思ったが、そんな世界が増殖している。乗り遅れた船を岸に戻してくれる船頭はもういない。  若者達、行儀良い人達、脂ぎった老人を信じてはいけない。どこへ導くのか信じてはいけない。正義や愛がなくても栄えることに長けている人を信じてはいけない。身体を丸めて体温を逃さないようにして冬を越した人達、春を信じてはいけない。焼かれる夏も、凍える冬も裁かれないまま地球を一巡しているのだから。