オタク

 僕は利用したこともないし見たこともないから特別な感慨はないのだが、寝台急行「銀河」など3つのブルートレインが今日で廃止されたらしい。大勢のファンが見送ったり、迎えたりしているのがニュースの映像で流れていた。どこの局の映像だったか分からないが、詰めかけた鉄道ファンが、出発する汽車に向かって口々に「ありがとう」って叫んでいた。声を合わせてではなかったから、万感迫って自然に出た声なのだろう。大きな鉄の物体に対して、まるで意志を持っている相手に対するように言葉を発する、それも感謝の言葉を発する光景に驚いた。  鉄道が好きな人は本当に好きならしく、僕の所に漢方薬を取りに来ていた少年が、それこそ信じられないくらいの鉄道の知識を持っていた。具体的には教えてもらったことはないが、それこそ駅の名前は勿論、通過時間なども知っている風だと親から聞いたことがある。学業なども特別優秀だったが、いわゆるオタクなのだ。  僕はすべての活動の源泉、それも大成する人の源泉はすべてこのオタク度の強さだと思っている。オタクでない人は大成功はしないだろう。恐らく歴史上の偉大な芸術家や学者、ひょっとしたらスポーツ選手や大実業家までもほとんどがオタクだろう。ある分野に異常に興味がもてるから情報を収集し知識を得る。又努力も惜しまない。僕はオタクってとても恵まれた性格だと常々思っている。本当にうらやましい。思い起こせば、少年の頃も青年の頃も、突出した興味がもてるものには巡り会わなかった。だから何かに力を集中した記憶もない。満遍なく、そこそこに何でも出来る人間で終わって、結局何も大成しなかった。  僕は、如何にも軽蔑の対象としてオタクをとらえる風潮に違和感をもっている。と言うより、そのようにしか見ない側の人間を寧ろ哀れに思っている。何かに集中している人間は、その何かが反社会的でない限り、「勝てないなあ」と思わされるくらい迫力がある。並の神経では勝てない、夢中になっている人特有のオーラを感じる。  例え巨大な鉄のかたまりに声をかけようが、消えゆくものに対するもののあわれを感じる力は、僕ら凡人にはない。ホームに群れた人達を見てやはり「勝てないなあ」と思ってしまった。