恐縮

 たまにはこの種の感動もいいものだ。僕の薬局は、やっている方も普通なら来てくれる人達もごく普通の人達だ。普通の薬局であり続けたいといつも思っているが、それでしかあり得ないのも事実だろう。  ある女性が、ご主人のためにちょっとしたものを買いに来た。僕より恐らく10才は年上だと思うが、若く見えるタイプだと思う。別にけばけばしく着飾って厚化粧をしている風でもないのに、一見してかなり恵まれた人ではないかと思った。服装には特に疎い僕だから服装で判断したのでもないし、持ち物で判断したのでもない。でも直感的に経済的に恵まれているような気がした。  薬について2回ほど簡単な質問を受けた時、知的な人だと思った。難解な質問でもないのに知性を感じた。素人がプロの助言を引き出すのに全く無駄がなかった。堅苦しくないごく普通の女性の言葉だったが、隠せない知性が覗いていた。  会計をするときに、かなり手間取った。なにやらご主人の財布で勝手が分からなかったらしい。結局小銭が見つからなくて、数百円の買い物に対して1万円札で払うことになった。そのことに関してえらく恐縮してくれた。  帰り際に僕を見てにこっとした。丁度、ボブマリーを大きな音でかけレゲエののりで仕事をしていたから滑稽だったのか、はたまた、偶然入ってきた薬局に合格点をくれたのか。その女性と入れ違いにある若いセールスが入ってきた。その女性は薬局の前に横付けにされた車に乗り込んだ。僕は車の横付けは嫌いだが、見るととても縦に入れることは出来ないくらい大きかった。仕方なく横付けしたのだと好意的に解釈した。品のいい人は得だ。すべて良い方に考えてもらえるから。セールス君が教えてくれたのだが、その車はベンツより高い国産車だそうだ。車の名前を教えてくれたら僕も聞いたことがあった。興味本位でナンバープレートを見たら大阪ナンバーだった。  その種の車を初めて意識して見た。その種の車に乗っている人を初めて見た。経済的に恵まれている人でそのことを全くにおわせない人、それどころか極めて謙虚な人と話が出来た。どの階層の人でも共通して謙遜な人、飾らない人、知的な人は気持ちよい。何よりも勝る財産だ。心以外の物差しでは測れないものばかりだ。