砲弾

 深夜の国道30号線は、四国からやってきたフェリーからはき出された10トントラックが列をなして突っ走る。片側1車線だからかなり恐ろしい。砲弾とすれ違っているようなものだ。運だけで帰ってきたような気がする。  旅館の馬小屋の飼い葉桶の中でキリストが生まれた。赤ちゃんの形を借りて神がやってきた。そのことに意味があるらしいが、あまり難しいことは僕には分からない。クリスマスを厳かに祝うミサの中で、表情が硬い女性がいた。ミサの後「元気?」と声をかけると、「元気ですよ」と返事をした。ところがしばらくして、「本当は元気ではないんです。懸案があって悩んでいるんです。よく分かりますね」と驚いていた。僕が職業的に日常、人の表情などから情報を得る訓練をしていることを話すと、安心したのか懸案を具体的に話してくれ始めた。30年の経験はその倍近く生きていた人間の経験から言うとまだまだ未熟だ。全くの他人だから言いやすかったのかもしれないが、僕はかなりきついことも含めて助言をした。最後には彼女から笑みが漏れ始め、何か吹っ切れたようなことを言っていた。結論を出すことを迷っていたのだが、はっきりと出せたのではないかと思う。  クリスマスの夜、その女性に素敵なクリスマスプレゼントになったかどうか分からないが、不運を再生産することだけは避けれたかもしれない。お節介かもしれないが、無関心を装うことはなるべく避けたいと思っている昨今だから、1歩踏み出して良かったと思った。