火星

 東の空に、一際黄色に輝く星があった。知識はないが、これが火星だったら、印象そのものだ。 誰もがその様な名前を付けるだろう。真っ黒な背景に、星の輝きは神秘的だ。古代、何もない時代には、暗闇の中で光る星を眺めて夜を明かしたことは想像が付く。いろいろなものに例えて楽しんだのだろう。ひょっとしたら星座なんかたわいもない会話から始まったのかもしれない。子供達の会話かもしれないし、知ったかぶりの年長者の話だったかもしれない。  まさかその時代に、星のように輝く人になれとは教えなかっただろう。背景の暗黒になれとも教えなかっただろうが、星の輝きは背景があってこそだ。いくら自分で輝いても日中は存在すら否定される。星になりたい人、星にさせたい人はうんざりするくらいいるが、背景の暗黒には関心を示さない。本当はその暗黒こそが無限で包容力に富んでいるのに。 いつか、星もない、月もない、雲もない夜の空を見てみたいと思った。冷気がアスファルトから垂直にあがってきていた。秋が終わる。