聖職

長い間、僕は若者といっしょに働いたことがなかったので、勝手に、若者の能力を見くびっていたのかもしれない。九州から助っ人でやってきた若い女性薬剤師は、数分我が家の自動分包器を触っていたかと思うと、なにの躊躇いもなく自由に扱い始めた。我が家のは結構高額で難しいと思うのだが。僕はそれを今だ理解していないが、だいたいの理解でも1月ほどかかった。まさにパソコン世代なのだろう。当初、傍で見ていてハラハラしていたが、余りの正確さにも驚いた。機械、時にコンピューターに関する能力には脱帽だ。  それからまずよく働く。前の薬剤師は仕事中も携帯を話さず自由に使っていたが、彼女は決して持ったりはしない。職場にそんな人間はいないといっていた。ただ、渡りと言って、職を転々とする薬剤師は、同じようなことをしますよと言っていた。毎日やってくるセールスに尋ねても、今は企業もその辺りの節度にはかなり厳しいと言っていた。まして薬剤師がそれでは困るでしょうと言っていた。中年以上の人間ばかりの薬局だったので、その辺りがなあなあだったと反省している。  もう1つ、よく勉強する。漢方薬ならいくらでも教えてあげられるが、そのほかのことは自分で根気強く調べている。もう少しで6年生の薬科大学を卒業した薬剤師が登場する。そうすればそれ以前の薬剤師は自然に駆逐されるだろう。おそらく知識の上で太刀打ちできないだろう。今の青年薬剤師にも勝てないのに、6年生卒に勝てるわけがない。もっとも、薬剤師の倫理規定以前の人間としての道徳も守れないような薬剤師が多いから、駆逐されるのは多いに歓迎されるべき事かも知れない。あるセールスが、薬剤師は聖職ではないんですかと言った。いやいや、そんな立派なものではない。単なる一医療人にすぎない。そんな身に余る誤解は受けれない。聖職といえるものが現在どれだけあるのだろう。僕は神父様以外には思いつかない。