ぬいぐるみ

 今日から1週間、お遊びでくじ引きをしている。70才代の女性がくじでパンダのぬいぐるみを当てた。結構大きいぬいぐるみで、子供は欲しがるだろう。そのぬいぐるみが当ったのがわかると、とても大きな声で喜んだ。孫にでも上げるのだろうと当然想像したが。実はそうではなく意外な理由による喜びようだったのだ。  その女性は、ぬいぐるみが好きで、家にも一杯ぬいぐるみがあるそうだ。パンダのぬいぐるみは特に好きで、たくさん揃えているらしい。ところが最近孫が来ては持って帰るばかりするので、段々数が減ったらしい。さみしくなり、買いたそうかと思っていたところにくじ引きが有り当ったそうだ。女性は当った瞬間、若い女性のように、いや子供のようにすごく天真爛漫に喜んだ。さっきまでの、膝が腫れた為に遠くから来て相談していた深刻な顔とは打って変わっていた。杖をつきながらゆっくり入ってきた姿とも打って変わっていた。ぬいぐるみを脇に抱え、杖をつきながら出ていった。  あの笑いを僕は作って上げれない。心底笑った時には良いホルモンが分泌され、体調は良くなると思うが、なかなか根暗な僕には難しい。顔を硬直させては、共倒れになる。僕の口から出る言葉は、パンダのぬいぐるみほどの癒しの効果もない。若いときから攻撃の手段として僕の口はあった。決して人を喜ばせる手段ではなかったように思う。