淡白

 僕は食べ物には、いや、ご馳走にはほとんど興味がない.いや、縁がない。いや、やっぱり興味がないのかな。自分でも分からないくらい確固とした意志がない。だから僕には他者と食べにいこうとか飲みに行こうとかの動機がない。事実そのような経験がほとんどない。研究会や慶弔の席くらいが用意されたその種の貴重な機会なのだろう。勿論その場では美味しいと思うが、敢えて食べなくてもすむから次はない。  前島と言う島のお百姓さんからいただいたサツマイモは、そんな僕をして驚かせた。見かけは不ぞろいだったが、無造作にビニール袋に入れて持ってきてくれたサツマイモは、形容しがたい美味しさだった。味音痴の僕が言葉ではうまく現せられないと思うが、挑戦してみよう。焼きいもにすると甘味は増すが、それは蒸かしたものだった。切断面は真黄色だった。味はとても甘くほとんど栗に近かった。芋と言うより栗に近かった。ああ、これでは味をうまく伝えられない。黄色と栗、僕が強く印象付けられたことなのだが。  くださったお百姓さんに美味しいかったことを伝えると、とても喜んでくれた。秘訣を尋ねると、土だそうだ。ある畑で作ったものだけがあのような味になると教えてくれた。だから量産できないのだ。折角誰もがみとめる美味しさに育つのだが出荷できるほども作れないそうだ。だから懇意な人に配って喜んでいただいていると教えてくれた。僕もその中の幸運な一人に選ばれたのだが、あまりに美味しかったことを力説してしまったので、お百姓さんは又持ってきてあげるといった。催促してしまったようで申し訳ない。お礼を言うのも難しい。でも、これでサツマイモにはうるさくなった。 いやもう1つ実はうるさいものがある。それはリンゴだ。長野県のある方から送っていただいたリンゴがめっぽう美味しくて、それ以上のもの、いやいや同等でもいい中心から蜜が周囲に溢れるようなリンゴが手に入らなくて、仕方なく1年をりんごみたいなもので過ごしている。味がわかり出すのも意外と不便かもしれない。2合ご飯を炊いて、塩をかけただけのお茶漬けで過ごした青春の日々が今の全く食べ物に淡白な僕を作っているのかもしれない。