熊が出没する地域のことを考えれば何でもない話しなのだが、狸はこの10年くらいもはや町で人間と共生する動物になってしまった。昼間から堂々と道を横切るし、えさを狙って、鎖で動けない犬のそばまで接近する。人間を見ても驚かないし、人の目を盗んで、えさをあさってごみ袋を破りそこ彼処にごみを散乱させる。  今朝なにやら表が騒がしいので覗いて見ると、道路の向こう側の廃屋の庭に狸がうずくまっていた。毛並みは悪くやせていて、後ろ足を怪我しているのか老衰か分からないが、やっと動ける状態だった。それが何故か道路を渡りたがっている。山の方向に行きたかったのだろう。近所の人が何人か出てきていて、食べ物で狸を誘導していた。  狸は、なんとなく愛嬌がある顔をしているが、人が好んで接近する動物ではない。頻繁に出没されれば石を投げてでも撃退する憎き動物かもしれない。しかし、憐れな姿を目の当たりにすると、人は不憫で仕方ないのだろう、懸命に車に轢かれるのを防ごうとしている。こんな光景を見ていると本質的には人は善なるものと言うのが信じられる。逆のニュースばかりを延々と流されたり、裏切りに遭遇すると信じる力さえ萎えてくるけれど、たわいもない出来事の中に見つけた小さな善にもう一度人を信じてみようと思わされる。