高速回転

  忙しい薬局ではないので滅多にこんなことはないのだが、朝早い時間に漢方薬を取りにこられた方が3人重なった。幸運にも、経過がよいみたいだったから、いつもの処方を作ってお渡しするだけでよかった。調剤室にこもって順番に作っていると、3人がお互いに会話を始められたので僕はゆっくり作ることが出来た。年配の方ばっかりだったので、時間は十分にあるのだろう。  牛窓町の人もいたし、町外の人もいたのだが、その中の二人が「昔からヤマト薬局だ」と話していた。どう言う意味かと言うと、二人とも僕の父の代から利用してくれていると言うことを言いたかったのだ。戦後岡山市から流れてきた父が小さな薬局を開きその後2箇所場所を替わり、僕が4箇所目の今の場所で薬局を開いている。二人は最初の小屋みたいな薬局からの常連さんらしい。「もう60年ヤマトに通っている」と話していた。  僕は牛窓に帰ってきてすぐに支店の方を手伝ったので、父と衝突することがなかった。父親と息子でやっている薬局でうまく行っている所はあまりない。どうしても男同士だと衝突するのだ。ただ晩年は、十分一人立ちしている僕に口を挟むようなことがあったので若干の衝突はした。老いた父に対して怒りを表わしたこともある。経営者になりたがっていた父と、ヤクザ医師(薬剤師)になりたがっていた僕は基本的には合わなかった。ただ物理的に離れて仕事をしたのが幸いした。懐かしそうに僕が見たこともない薬局の話をしている情景に、父のやり方を否定して歩んだ自分に若干の後ろめたさを感じた。否定していても、他者にとっては連続なのだから。そう言えば、僕が牛窓に帰った頃の父の年令にもう僕が近づいているのだろう。人生なんてあっという間だ。なにも出来ずに時計の針だけが高速回転する。