目の前の人

 ほぼ30年間、昔ながらの形態の薬局をやってきた。たいした薬局ではないが、毎日やってきてくれる人を懸命に応対した。目の前にいる人に集中して30年来た。目の前にいる人、それは一寸疲れてリポビタンを飲みたかった人かもしれないし、漆にかぶれた皮膚病の人かもしれないし、長年の畑仕事で膝を磨耗させた人かもしれないし、気持ちのよいウンチが出ない人かもしれないし、心をどこかへ忘れた人かもしれない。しかし、ただひたすらに目の前の人の不快症状を治してきた。それがよかったのかもしれない。目の前にいる人を大切にする。母でもないし兄弟でもないが、集中してお世話する。その単純な、しかし誠実な繰り返しこそが栄町ヤマト薬局を存続させてくれているのだろうか。華やかな話しはない。地味な作業の繰り返しだ。それでもやりがいをもってやれるのは、目の前にいる人達の純朴な姿だ。取り残された過疎の町の唯一の財産。