展望台

調剤の機械に慣れたこともあるのだろうが、およその段取りがわかったお蔭で、日曜日家に閉じこもって、特別養護老人ホームの薬を作ることからやっと解放された。毎日朝2時間、夜2時間くらい仕事時間以外に頑張ればなんとか、納めることが出来るようになった。  今日は久しぶりに孤独な日曜日を堪能した。1ヶ月くらい読めなくて溜めていた本を玉野の図書館で読もうと沢山持って出た。ところが玉野市の図書館は日曜日が休館だった。仕方ないから、今まで足を伸ばしたところがない玉野の街を探索することにした。昔は本州と四国を結ぶ重要な街だったが、連絡船が瀬戸大橋にとって替わられてから、さびれてしまった。何とか持ちなおそうとする企画はあるのだが、それが効を奏しているようには見えない。  島より大きな船が、山肌を無残に削って進む。人が住む島は荒れ、人がすめない島は美しかった。僕の足許の岸壁は太陽に燃え、照り返す波は僕の町に続いている。僕の心に平和はない。色々な顔をした僕がいて、色々な言葉を使う僕がいて、色々な味のする涙を流す僕がいる。僕自身の中に不和が渦巻いて、やり場のない不安を人気のない展望台の上から落としてみる。  結局僕は教会の学習室で、クーラーを拝借しながら、一人勉強した。コカコーラを飲み、神に祈り、又勉強した。今日は特別、ある女性について特にお願いしてきた。僕の不妊漢方薬を飲んでくれている方だ。なんでこんなに優しい女性が母親になれないのだと漢方薬を取りに来る度に思ってしまう。僕の力だけで解決できないなら神様の力をお借りするしかない。僕の大切な全ての患者さんの幸運も勿論お願いしたのだが。  コンビニに立ちより、缶コーヒーを買う。信号機が青に変わるのをゆっくり待つ。そんなたわいもないことが僕にとっては日曜日の喜びなのだ。いつか心に平和を取り戻したい。そうすれば他者にも心の平和を分けて上げられる。今は残念ながらいただくばっかりだ。