ガス漏れ

 今、2階で、関西から来た女の子が、お笑い番組を見ている。2階に上がって、皆で一緒に見ようと誘われたのだが、僕は薬局の事務所で処方箋の請求事務を始めた。月末の一番面白くない作業だ。  彼女はゆっくりとした関西弁を話す。テレビから聞こえる機関銃のような関西弁ではない。おっとりとした少女のような風貌、言葉使い、動作全てが周りの人間を和ませてくれる。そんな自分の性格を彼女は欠点と思っているらしいが、それは計り知れない長所だ。その自然にかもし出す雰囲気でいかに沢山の人の心を癒しているだろう。  2泊3日の短い滞在を終えて明日帰っていく。僕はその時のことを想像しただけで涙ぐんでしまう。こんな素敵な青年が、実際には存在しなかった症状(ガス漏れ)で、青春前期から青春中期を苦悩のうちに過ごす不条理を、僕は受け入れられない。僕の家族と一緒に暮らすことで、彼女に何の症状もないことを分かってもらえれば、ガス漏れは完治する。漢方薬で出来ること、出来ない事を痛いほど経験した挙句の、総合的な僕の処方なのだ。これならかなりの人を治せられる。  彼女は多くの青年のように自分を卑下するが、こんなよい子を持ったご両親は幸せだと思う。今まで沢山のIBSの子を招いたが、実は僕こそが多くの喜びをいただいている。自分の主張を控え、他人を蹴落とさずにけなげに生きている青年の心は、僕の汚れた心を少しだけ清めてくれる。  もし身の回りにガス漏れで青春を棒に振っている人がいたら声をかけて欲しい。ガス漏れは、安定剤や抗鬱薬では治らない。カウンセラーでも治せない。体調を改善する煎じ薬と、1つずつ事実を積み重ねていってトラウマの不合理を崩していく専門的な知識が必要だ。必要なのは、癒しではなく、客観的な考察なのだ。これしか真の解放はない。