スーパーマンシンドローム

 1年に1度くらいしかこの10年の間に息子とは会っていない。忙しそうだからなるべく邪魔をしないようにしてきた。昨日あることで息子と電話で話をした。電話をすることさえ、実は遠慮している。日曜日の昨日もやはり1日中働いていたらしい。受け持っている患者さんがなくなったらしくて、残念そうな口ぶりだった。親としたら、元気でいるか、食事はちゃんと摂っているか、睡眠は十分かなどと気にかかる。仕事の流れが出来たらしくて、気を抜ける時間が少しは持てるようになったこと、夕食はなるべくファーストフードなどでは済まさずに、家に帰って食べていることなどは安心した。ストレスはどうか尋ねたら、やはり目が覚めるとすぐに、気になる容態の患者さんのことが頭に浮かぶらしい。真面目に仕事に取り組んでいる証拠だが、スーパーマンシンドロームに陥らないことを願う。患者さんや家族はどんな病気でも治して欲しいと願う。しかし、医療とは所詮自然治癒力の範囲内でのこと。不可能を可能にすることは出来ない。それを常に認識して、全てに答えようとはしないで欲しい。  僕が30年近くかかって得た知識を息子は数年で越している。助けて上げられる人達も、僕が長い間に健康のお手伝いが出来た人数を遥かに超えるだろう。最先端の医療の知識を駆使している彼と、漢方薬を調剤している僕とでは全く立場が違うが、いつか僕が集めた漢方の知識も利用して、病める人達を助けて欲しいと願っている。電話で話す内容は、父と息子ではなく、同じような職業の人間としての話が多い。寂しいけれど。