シール

 関西に住む過敏性腸症候群の彼女は、最初の相談の時は泣き続けだった。漢方薬を2週間分ずつ送り、その都度彼女の疑問を解いていった。思い込みの激しい彼女だったが、長年の疑問を1つづつ解いていくたびに少しずつ、自分を解放してくれた。中年に達するまで、行動に極端な制限を加えていたが、出来ることを1つづつ重ねていった。今では仕事にも行っているし、苦手だった、入学式や卒業式、他人との食事などもこなしている。  漢方薬を送った翌日の夕方、彼女から電話があった。僕が送った封筒の中に、切手大のシールが入っていたと教えてくれた。それは、薬剤師が設定された勉強会に出席するともらえるものだ。それを一定以上集めると、勉強熱心な薬剤師として認められる証拠のようなものだ。認定薬剤師という称号がもらえる。多くの熱心な薬剤師がその認定を受けている。栄町ヤマト薬局のT薬剤師も認定されている。僕はどうも認定薬剤師という呼称に抵抗があるので、そのシールを捨てている。切手にでもなればいいのになんて言うと、薬剤師会に怒られるかな。  話を戻すが、彼女は封筒の底に見つけたシールが、大切なものと思い心配になって電話をしてくれたのだ。この神経の細やかさこそが、彼女を長年、過敏性腸症候群で苦しめたのだ。彼女の長所こそが彼女を苦しめた。僕は電話で、そのことを話し、もっとずぼらにと言ったが、そんなことが出来る彼女ではない。そもそもそんなことが出来ればあんなに苦しんではいない。あるがまま、今のままで治ること。それしかないし、それが大切だと思っている。