ツバメ

 ツバメが薬局の軒先にやってきた日に、東海地方からある女の子がやってきた。過敏性腸症候群のガス漏れで悩んでいる子だ。口数が少ないけれど、僕はその笑った横顔を宝物のように感じていた。華やかで雄弁が闊歩して、もてはやされる時代に、ゆっくりとした誠実な時間が僕の回りに流れた。真実なんて、饒舌からは生まれない。もくろんだ分だけ希薄な単語を並べるが真実なんかかけらも感じられない映像が、24時間垂れ流され下水に消えていく。堕落の断崖からこの国を救っているのは、ひょっとしたら僕の話しをじっと聞いていたこの子らの汚れなき魂かもしれない。 来る時には数時間デッキに立って来ていたらしい。しかし帰る時には混雑している中で冷静に帰れたらしい。ガス漏れに関して、煎じ薬だけでは難しいと感じている。確かに僕の漢方薬だけで治った人もかなりいる。しかし、漢方薬だけでは解決しない心の奥底の記憶は、会って一緒に同じ時間を過ごすことが一番よい解決方法になる。漢方薬で治る態勢はほとんどの方に出来る。しかし体調をよくしても完治しない人は、一緒に語り合い解決するしかないと最近感じている。一人も治療から落ちこぼれないようにしたい。我が家の子供たちが出ていった後、建物はがらんとしている。僕の心も空きの巣症候群なのかもしれない。青春を棒に振っている人がいれば手を差し伸べるのは当然のこと。過敏性腸症候群の人達がまことしやかに情報を交換するのを否定はしない。しかし、ありもしない症状をことさら強調して、治療を難しくしてはいけない。大切なことは、治ること。ただその1つの目標に向かって正しい知識を得ることだと思う。100の慰めより1つの事実だと思う。  去年はツバメの赤ちゃんをカラスに食べられた。毎年これから数ヶ月カラスとの智恵比べが始まる。一応勝ち越してはいるのだけれど。