友情

 テニスコートが見えるあたりから、コート上に黒いものがたくさんあるように見えた。近づくにしたがってそれらが活発に動き出したので鳥だとわかり、コート直前では燕だとわかった。テニスコートは4面あるのだが、どの面にもいて、数えてみると30羽を超えていた。しばしば他の種の鳥が同じようにコート上で遊ぶのには遭遇するが、燕が地上にいるのにはあまり遭遇しない。何をしているのか見ていると、他の鳥のようにせわしく地面にくちばしを伸ばすことはなかった。ただ、時々はそのような仕草はする。虫でもいるのかと思うが、近づくと逃げてしまうのでそれは確認できなかった。燕は飛びながら虫を捕まえるのかと思っていたが、ひょっとしたら地面を這っている虫も捕まえるのか。草も生えていないコート上では天敵の蛇などもすぐ察知できるから、安全に朝食が取れる至福の時間なのだろうか。そんなところに乱入しては申し訳ないので、僕は1面だけ燕からコートを借りることにした。分かっているのか分からないのか知らないが、燕たちは隣3つのコートに飛んでいって、同じように食卓を囲んでいた。かつて燕尾服を着ることを拒否した男と燕尾服そのものの燕たちとのつかの間の友情。