地元

 僕は加藤太陽君が、和気清麻呂太鼓にいるときから演奏を見ているが、いまや「志多ら」を支える打ち手になっている。大太鼓を打つ背中に筋肉が立派についているのを見て、日ごろの鍛錬振りもうかがわれた。
 日曜日のコンサートが彼の地元と言うこともあって、和気町の人が会場の前半分を占めていた。偶然かどうか知らないが、後ろ半分は僕を含めて和気町外からやってきている「志多ら」の熱烈なファンだ。
 僕は、強烈に激しく叩く太鼓が好きだが、そんな曲は一つの舞台でそんなに多くを演奏することはできない。その日も、何曲かそんな演奏があって、自然に拍手が沸き起こった。さすがに和気清麻呂太鼓の地元だけあって、そのタイミングがいい。熱演のクライマックスで一気に拍手が沸き起こる。沢山のコンサートに出かけるが、応援の仕方はどこにも負けず上手だと思った。
 演奏が終わった後、ロビーではグッズの販売会をかねてサイン会が行われていた。サインをしているのは太陽君だけだったが、結構長い行列ができていて、地元の人が、彼を支え応援している様子が伝わってきた。彼は本来的な人の良さが表情に表れていて、きっと子供のときから地元の人たちにかわいがられているのだろう。そういえば、全ての演奏が終わってアンコールのときに、僕の前に腰掛けていた見るからに、ご法度の裏街道を行きそうなおじさんも、懸命に名前を呼んで応援していた。そんな姿をさらしていいのかと言うような光景だったが、恐らく風貌とは裏腹に心優しいおじさんだったのだろう。
 ひょっとしたら太陽君は、和気清麻呂以来の和気町のヒーローなのかもしれない。時を越えて現れたヒーローなのだ。