分包機

 背に腹は代えられないから煎じ薬を作る分包機を買うことにした。いつまで僕が薬局を手伝うことが出来るかわからない。せめて手作業部分だけでも機械化して、娘夫婦の負担を少なくしておいてあげようと思った。来週にはメーカーが運んできてくれるらしい。これで数人がかりで作っていたものが、1人で出来ることになる。
 昔からの薬局だから、病院の処方箋調剤あり。OTCと呼ばれる軽医療のための薬あり、そして漢方薬あり。どれにも偏っていないつもりだから、田舎にあるにしては結構忙しい。時に、それらの人が重なるとてんやわんやになる。そんなことは滅多にないのだが、滅多にないことに備えるのも必要なのかもしれない。
 以前からこの機械には関心を持っていて、中古品でもあればいいなと悠長に構えていた。ところが年末からのドサクサで備えていたほうが安心だと気づかされた。もう中古を待つなんて選択肢は無くなった。漢方薬局が減っているのだから、廃業を機会に分包機を手放してくれればいいのだが、そもそも分包機を持っている薬局自体が少ないし、持っている薬局は倒産や廃業をしない。だから現代薬の分包機ほど出回らないのだ。
 若ければ好奇心で、どんな機械が来るのだろうと、子供のようにはしゃぐことも出来るのだろうが、僕の年齢になるとまず「使えるのだろうか」が先に来る。まさかAIではないから僕にでも使えるだろうが、変ることや新しいことに何となく気が重たくなってくる。特に最近はその傾向がはなはだしい。心は二十歳、体は80のギャップに苦しんでいたが、段々そのギャップが埋まり、今では心身ともに老人になりきっている。やっとバランスが取れてきた。これは、おめでたいことか。