綿密

 東京より遠いある県から一人の女性が漢方相談に来てくれた。時々そうした労力を惜しまない方がいるが、今度の方は交通機関の利用の仕方が慣れているのか、得てているのか、勇気があるのか、驚きでもありうらやましくもあった。  詳細は分からないが、恐らく利用したのは飛行機と長距離バスと、ローカル電車と、ローカルバス。どなたにも、邑久駅まで迎えに行くと提案するのだが、その女性は、邑久駅からバスの連絡がいいのでバスで行きますと言った。そんなところまで調べられるのかとびっくりした。過疎地を走るバスなのに、よく分かるものだと感心した。  遠くから来るのだから疲れるだろうと思って、3階に泊まって行ってもいいと提案したら、もう岡山市内にホテルの予約していた。翌日に神戸空港まで行って、そこから飛行機で自分の住んでいる県の飛行場に戻るらしい。聞いていて実に合理的な動きをする。  その女性に触発されて今僕は、パソコンを酷使しながら頭をひねっている。と言うのは4月に帰国するかの国の女性達が思い出に雪を見たいと言ったのだ。ただ僕達県南の人間はとても穏やかな天候の元で暮らしているから、雪とか寒さとかには全く慣れていない。雪の厳しさが想像つかないのだ。或いは危険を伴うことも大いにあるだろうという心配もかなり先にたつ。何とか思い出を作ってあげたかったが、さすがに真冬に北に行くのは気が進まない。しかし、はるばる来てくれた女性の行動力や綿密さを見習って、かの国の女性達のために尽力しなければと言う気持ちが強くなった。  朝仕事前に、昼仕事の合間を打って、夜仕事を終えてからパソコンに向かって悪戦苦闘しているのだが、なかなかスケジュールが出来上がらない。ただ雪景色を見るだけではもったいないので、サプライズでスキー場へ連れて行ってあげようと思っているのだが、電車やタクシーの手配、スキー場での貸し衣装、食事など、なかなか課題が多い。スキー場はさすがに田舎で、インターネットで調べた連絡先に電話をしても、なかなか連絡がつかない。情報が集めきらないのだ。いたずらに日にちだけが過ぎていく。  こうした場面をあの女性ならはどうして乗り切るのだろうと思いながら、空白だらけのスケジュール表を恨めしく眺めている。