解説

 昨日、脊柱管狭窄症の漢方薬を取りに来たばっかりなのに又今日来たから何かあると思った。案の定「先生、昨日の煎じ薬は2週間前のと大分内容を変えた?」と、開口一番尋ねられた。こんな聞き方はどちらかと言うと不都合な症状に遭遇したときのものだ。「先生、2週間前は背骨の神経の薬を作ってくれたんじゃが、昨日のは、ワシの頭の神経の薬を作ってくれたんじゃないの?」とジャブを出してくる。そして「昨日の薬を昼から飲んだんじゃが、なんだか眠たくなって昼寝をしたんじゃ。体もだるーくなって。じゃから、今日、西大寺に行こうと思っとたんじゃが居眠り運転をしたら怖いからやめたんじゃ」と具体的な招かれざる症状を列挙した。要は、今回の漢方薬をこのまま飲み続けてもいいかと言う質問だ。  僕は漢方薬の構成成分を知っているから、男性が気にしている症状を作れるわけがないことは簡単に分かる。漢方薬とは全く関係のないことなのだ。その上男性が陥った急激な体調変化の理由も簡単に分かる。もっとも、超神経質な男性が、眠たくなったりだるくなったりするのは歓迎すべきことだから、茶化して「本当に御主人が真昼間から眠くなれるような人になったら僕は嬉しいけれど、残念ながら漢方薬のせいではなく、昨日からの急な暑さじゃわ」と答えた。この解説で男性は安心して一瞬にして笑顔が戻り、そこからは自慢のカメラの話題になって、終始にこやかだった。  80歳を過ぎて、腰痛を抱えながら、お子さんと奥さんの世話をしているから、自分が常に健康でなければならない。そのためにとても繊細になって、ちょっとした不都合も許せない。この国で歳をとるのは難しい。つい2年位前までは決して病院の薬以外は口にしなかったが、二人の介護疲れで倒れそうになったときに、僕の薬で救うことが出来、以来信頼して漢方薬や天然薬を上手く利用している。病気は現代薬で何とかなるが、老いは自然薬でないと太刀打ちできない。お子さんより長生きしなければならない老人の祈りがかなう手伝いが出来ればと思わずにはおられない。