労働者

 今日は、労働者。どうってことはない。少し膝がガクガクして、腰がしびれそうになって、息が切れて、ふらっとめまいがして、冷や汗が出て、脱水気味になって、ちょっと気分が悪くなっただけだ。今日は労働者、6時間、4階建ての建物の狭い階段を荷物を持って上がり下りしただけだ。今日は労働者、漢方薬の大先輩が亡くなられて薬局を閉じていたのだが、行き場のない古い薬や調剤器具、棚や本、その他諸々の生活道具を片づけに行っただけだ。 岡山市の嘗ての一等地で開業されていたから、予想以上に薬や器具があった。僕の車で充分だと思っていたのに、結局は義兄の2トントラック2杯でもさばくことが出来なくて、次週に持ち越した。狭い薬局のような印象を持っていたが、アーケードで4階建てってことは隠されていた。各階に薬や器具が収納されていて、予想以上の量だった。予想以上なのは、僕なんかよりはるかに高尚な仕事をされていたのではないかと思ったことだ。土地柄、お金持ちの患者さんが多いと聞いていたが、それを裏付けるような高額な生薬や、僕の知らない処方の漢方薬もあった。ずいぶんと高齢になるまで現役で頑張られていたが、恐らく充実した仕事ぶりだったのではないかと思う。  今日は労働者。平日力仕事もしていないのに肩や首がこって不愉快なのだが、今日は全くこらなかった。僕には肉体労働の方が合っているのだろうか。若いときからそう思っていたが、実際にはこのひ弱な身体では通用しないだろう。でも心はやはり肉体労働を求めていた。今日は労働者。後ろを人が通るのも困難なウナギの寝床みたいな食べ物屋で、先生夫婦と娘夫婦の5人で昼ご飯を食べた。みんな壁に向かっていた。カツ丼を注文したのに、玉子丼が先に出て来て「はい僕です」と手を挙げたら「お父さんはカツ丼じゃないの?」と娘に言われた。「お父さんは、違いが分からないんだ」と答えた。今日僕は労働者。