全勝

 本当に悪いことをした。朝、雨がかなり降っていたから帰ってくるまではずっと降っているだろうと高をくくっていたのだ。この数年カラスには全勝だったので慢心していた。ところが昼過ぎに雨が上がって、カラスが雛を食べたらしい。巣は無惨に壊されていて、親ツバメの姿もなかった。 その光景もいやだったが、もっと辛かったのは、数日後同じツバメかどうか分からないが、壊れた巣を修理し始めたのだ。頻繁に飛んできては泥をくっつけ、又せわしくなく飛んでいく姿のほうが痛々しかった。ツバメに本能以外のものがもしあるとすれば、大家を恨んでいるだろうから、もう少し想像力を働かせて守ってやればと後悔した。自然の摂理に介入していいのかどうか分からないが、人の常でどうしても弱い方の味方になってしまう。誰に教わったのか本来的にその立ち位置を崩したことはない。  人は本能的に弱い者を守ろうとするのかと思っていたが、どうやらそれは本能ではなく幼いときからの教育に他ならないのだろう。せめて弱肉強食の動物と異なるところを見せてほしいが、どうもほとんど同じと言わなければならない場面ばかりに遭遇する。殺戮を頂点としてサギに至るまで、いやいやもっと善人面した政治や商業、最近では科学までもがほとんど動物並の営みだ。 カラスに悪意がないのは分かっているから、一概にカラスをせめることは出来ないが、雛に重ねて見てしまうものばかりが頭を過ぎるから見て見ぬ振りが難しい。巨悪に見て見ぬ振りをして、こんな小さな生物に見て見ぬ振りが出来ないなんて勝手きわまりないが、どうか世間の皆様には僕の愚行も見て見ぬ振りをして頂きたい。