無理

 あのオーナー夫婦だったらこんな女性をバイトに雇うだろうなと、至極自然に結びつく好感度だった。最初は客の薬を取りに来たのだけれど、2度目は自分の症状のための薬を取りに来た。具体的には言えないが若い女性には辛い症状だった。僕は直感的にこれは漢方薬で改善できると思った。勿論向こうはそんなつもりで来てはいないから、外用剤で患部の修復が出来るように工夫した。ただ、それは修復だけであって根本解決にはならない。いたちごっこの繰り返しに過ぎないのだ。このままでは何となく僕が後悔しそうなので、漢方薬でかなり改善できることを覚えていてねと彼女に伝えた。 すると彼女は、以前病院で漢方薬をもらって飲んだことがあると言った。一度目は漢方薬を飲み始めて3日目に身体中に発疹が出て止め、2回目は違う病院でもらって飲んだら数日で黄疸が出て肝数値が急激に上がったため止めたらしい。「おしいなあ、結構自信あるのだけれどね」と言うと「こちらの漢方薬なら飲めますか?」と尋ねるから「絶対無理」と答えた。  漢方薬を曲がりなりにも自由に使えるようになってどのくらいの人数の方に飲んで頂いたか分からないが、上記のような経験が僕にも1人ある。明らかに肝臓に対する副作用だ。その方も極度の倦怠感、黄疸があり病院に行ってもらった。1週間くらいで治ったがこの副作用は予見できない。その方は特に肝臓が悪かったわけではないが、不運にも体に受け入れては貰えなかった。現代薬では別に珍しい副作用ではないが、漢方薬でも残念ながら起こりうる。  笑顔の素敵な若い女性の悩みを少しでも軽減してあげることが出来れば、僕自身の喜びでもあるのに残念だ。この年齢になると僕が出来ることは、僕が出来ないことが出来る若者や、僕が出来ないことに挑戦する若者達の援助くらいだ。それも健康面に関してだけというとても狭い範囲だが。寂しいけれど徐々に僕の中から僕が消えていく。