蜂の巣

 電話の中で何度も「お願いします」と言う言葉を使われてやっとわかった。要はお金を出してくれってことだった。蜂の巣を取るのにどのくらいのお金がかかるのか知らないが、従業員が外国も含めると万に届きそうな大きな会社が、たかが蜂の巣を取り除く費用をけちるのかと思った。 
 業者を紹介すると言うから既知の業者がいるのかと思ったら、インターネットで探すと言う。インターネットで上位に来るのはプロに金を払ってそうなっているだけで怪しげなのが多いのは、ニュースなどを見ていれば分かる。だからインターネットで探した業者を紹介すると言われてすぐに断った。僕にはほとんどのことを依頼している工務店の若い従業員がいて、娘もかなり信頼している。住環境の困りごとは数年前からすべて彼に頼んでいる。
 早速娘経由で連絡を取ると、スズメバチなら3万円、あしなが蜂なら3000円と答えが返ってきた。お抱えの業者がいるのかどうか知らないが、あっという間の返事だった。金額もはっきりしている。他の業者の値段を調べることも僕はしない。天秤にかけることはしない。信頼している人を今までのようにただ信じるだけだ。
 それにしても大会社が、たったこれだけの値段をけちるのかと悲しくなった。ベトナム人の寮を探していて見つけられなかったから、古民家を買って寮として提供してあげたのに。ただしこの「あげたのに」は彼らには響かない。会社と言う見えぬ鎖に縛られた無機質な細胞の一つでしかないのだから。