脇道

 日が長くなった。昨日、ある用事を1日の最後にとっておいたので、妻がその家を訪ねたのは午後7時前だった。訪ねるといっても初めての場所だからおよその見当しか立てていなかった。運悪くそのお家がありそうなのは、主要道から脇道を入り、そこからまた細い道を入っていく感じだった。僕の車では余程度胸か技術がなければ入っていけそうになかったので、路肩ぎりぎりに車を止めて待っていた。ところが妻は家がなかなか見つからないみいで何度もバックミラーから消えたり現れたりしていた。偶然犬を連れた老人が通りかかったので尋ねていたみたいだが、それでもなんだか合点がいかなかったみたいだ。おまけに無類の犬好きは僕が待っているのにお構いなく、しゃがみ込んで犬と戯れる始末だ。そうしているうちに暗くなった。車を止めていた道は、対向車とすれ違うのがやっとなくらいだったので、ちょっと先に見つけたゴルフの打ちっぱなしにの駐車場に無断で車を止めさせてもらった。  車を止めて外に出てみると、空気がひんやりとして気持ちが良かった。打ちっぱなしの反対側には幅数メートルの水路があって、そこが児島湾の干拓地だというのが分かる。恐らくこのあたりは農地が広がっていたのだろうが、今は住宅がポツポツと立っている。薄暗い街路灯が水路に沿って立っているが、安全といえる明るさには程遠い。  ふと気づくと、頭上を頻繁に何かが飛び交っている。一見ツバメが飛び交っているように見えたが、羽を広げた長さの割には体長が短い。あれはこうもりだ。すばやい動きで鋭角に方向を変える。彼らが活動を始めた時間なのだろう。そうかこんなところに一杯すんでいるんだ。この時間、この暗さだから人が気がつかないだけで、きっと一杯のこうもりが繁殖しているのだろう。このあたりの家の屋根裏に住みついているのだと思った。  想像して気持ちの良いものではない。見た目ではなく、こうもりは狂犬病を伝染させると聞いたことがあるのでそれ以来、そういった意味でも、ますます嫌いになった。インターネットで調べてみると、実際には人間が被害に会うことはないらしいが、それでも感情論として受け入れられない。  鹿も猪も熊も鳥も確実に増えた。こうもりが増えない理由はない。招かれざる生き物だが、生きていく能力は高そうだ。誰か全部捕まえてこうもり傘にしてくれないかな。