前代未聞

 義兄の血を引いているのだろう、姪はなかなか機械に詳しいというか、不具合に果敢に挑戦する。時に及ばないことはあるが、僕が頼んだことの多くを解決してくれる。探究心が強いのか倹約家か分からないが、いずれにしても僕は多いに助かっている。  今日も事務室からなにやら叩く音が聞こえてきた。音から判断してどうやら卓上の計算機が不都合になったみたいだ。数字を入れて確認しているのだろうか、随分と長い時間その作業を続けていた。壊れた機械をヒステリックに叩いているようにも聞こえた。  そのうち諦めたのか僕のそばまで来た。と言うことは修理できないから新しいのを買ってもいいかと許可をもらいに来たのだ。案の定「叔父ちゃんこの計算機、もうだめかもしれない。不思議なんだけれど114-57だけが出来ないんですよ。あとは全部できるのに」不思議な壊れ方もあるものだと思いながら、言われるままの数字を打ち込んでみた。するとちゃんと57が出てきた。計算機を疑うわけではないが、壊れたと言われたから暗算でも確かめてみた。「壊れていないよ、ちゃんと正しい数が出ているよ」と言うと姪は覗き込んだ。「ほれ見てごらん、57のまま引き算が出来ていないでしょう」と自信を持って答えた。「57だから正しいではないの」「えっ、なにっ、57が答え?」少し間が空いて「そうか、この57は答えか!私は引く57の57かと思っていた」照れ隠しに女性がよくやるように、手首で空気を切って笑いながら事務室のほうに入っていった。  それだったら、222-111も出来ないんじゃないのと言ってやりたかったが、もうその時はいなかった。それにしても何故114-57なんて計算をしたのだろう。薬局の仕事でそんな数字が出てくるのか?前代未聞の勘違いよりそちらのほうが興味がある。