松葉杖

 レビー小体型認知症と言う言葉を次女三女から聞くとは思わなかった。僕らでも縁遠い言葉、いわんや一般の人にはなおさらだ。それをかの国の若い女性が口に出したのだから驚きだ。介護の専門学校ではそんな難しい事を教えているのかと感心した。少しずつ知識を増やして成長しているのを感じた。言葉のハンディーがあるのに立派なものだ。  驚きついでにもう1つ。4人で話しているときに妻が用事で抜けた。台所の戸を開けて廊下に出たのだが、その後姿を見送っていた三女が、妻が和室に消えるや否や大声で笑い始めた。それもしゃがみ込んで。立ったままで姿勢を保てるほどの笑いではなかったみたいだ。よほどおかしかったのだろう。そしてその笑いが一段落つくと、その笑いの原因を実演して見せてくれた。  もう1つ回復が遅い妻は時々松葉杖を使う。その時も松葉杖を使って部屋から出て行ったのだが、その姿が滑稽だったみたいだ。次女の実演は、杖をまず出して、その後よいほうの足を出し、最後に傷めた足を出す仕草だった。そうして数歩歩いた後、杖を持ち上げて歩く仕草をした。時々薬局にも杖をぶら下げて入って来る慌てものの老人がいるが、その姿そっくりだった。要は杖の役割を果たしていないのだそうだ。むしろ杖を支えているようなものだ。「まず杖の後はカンソク、その後ケンソク」と教えてくれたが、言葉の意味が分からなかった。ちょうど松葉杖の講習があったばかりらしくて、次女と三女が合唱で教えてくれるのだが、頭に浮かんだのは「観測?」てなところだった。  結局、専門用語で患足、健足のことだと分かったのだが、専門的な知識を蓄積して行っている姿をリアルタイムで見ることが出来るのはなかなか嬉しいものだ。少し僕の職業とも重なるところがあるので、頼もしく感じる。ちょっとした偶然から始まって、少しばかり運命を重ねようとしている。人生とは面白いものでもある。、