注意力散漫

 僕は少し驚いたが、向こうはかなりヒヤッとしたのではないか。手を上げて謝ったが、車は速度を上げて立ち去った。  朝早い駐車場に、見慣れない車が僕の車と並行して置いてあったので、それを見ながらつい道路を横断してしまった。いくら朝早いと言っても、道路を横断するときに左右を確かめない僕ではない。ところが何故か左を確かめた後右方向は、ずっと遠くまでは確かめなかったのだ。それと何故か良く分からないが、耳は澄ましたのだ。車はそんなには通らないだろうと言う勝手な思い込みで、車の音で安全を確かめてしまったのだ。ところが音を捉える事ができなかったので自然に渡り始めた。すると道路の半分がまだ来ないあたりで右側に車の気配を感じた。突然、視界に車が入ったのだ。慌てて右側を見ると恐らく10mくらいのところまで車が接近していて、かなりスピードを落としてくれていた。だから身の危険は感じなかったが、悪いことをしたと言う罪悪感は大きかった。大きく手を上げて謝ることしか出来なかった。  自分でも珍しい体験だ。歩行者に原因がある事故は沢山あり、老人が安全の教習を受けるニュースを時々見かける。筋骨はさすがに衰えているが、注意力散漫になるとは考えたことはない。むしろ注意力散漫で、世の中のことや悪い奴らのことを考えずに暮らしたいくらいだ。昨夜息子が新しい車にしたって聞いていたから、車の外見を見入ってしまっていたのだ。  以前の8人乗りから、7人乗りに変わったらしくて、それではかの国の女性達をコンサートに連れて行くのが1人減ることになる。そんなことを考えながら、道路を渡り始めたのだ。今回は安全運転の運転手さんに救われたが、これからも起こりうることとして肝に銘じた。