前震

 知らなかった。ゼンシンと言えば、前に進むことと、以前のことを言うのかと思っていたら、露払いみたいな地震のことを言うらしい。専門用語かごくごく普通に用いられる言葉か知らないが、少なくとも僕は初耳だった。ただ漢字で書かれればなんとなく意味は分かる。  実際に起こった災難で偶然知った言葉だが、知る機会もなかった・・・ほとんどの人は最近まではそういった生き方が出来た。ただこれからは、かなりの確率で地震用語に遭遇することになりそうだ。この国にすむ人間は、いつ地が割れ、山が崩れ、家が崩れ、津波が押し寄せるか、考えながら生活しなければならなくなった。よほど楽天的な人以外は、かなりのストレスを抱えたまま暮らさなければならないってことだ。どこかに緊張感を隠しながら生きていくのは、心どころか肉体にもよくない。現代人が逃げられない緊張した日々が、密度を増す。  実は僕にはもう一つ憂いているものがある。アホノミクスがあのいやな戦争時代の前震になりはしないかということだ。田舎の百姓の息子が、都会の実業家の利益を守るために、殺したり殺されたりした戦争だ。庶民には何の関係もない理由で、飢えたり教育を奪われたりした戦争だ。見るからに抜けた顔で、何を気取っているのか知らないが、知性のかけらも持ち合わせていないような人間にあの地位を与えているこの国の人たちの知的レベルを疑う。  日常を引き裂く活断層も怖いが、歴史を引き裂く活断層も侮れない。夏の選挙で退場させなければ。