森羅万象

 僕は日曜日にはなるべく4時までに家に帰ることにしている。それがかなわなければ次の目標は5時半だ。理由はいたって簡単だ。4時から始まる吉本新喜劇か5時半から始まる笑点に照準を合わせているだけなのだ。ただ僕は笑いたいのだ。普段笑わせるほうにばっかり回るのでたまには笑わせて欲しい。1週間の緊張を取ってほしいのだ。  昨日も吉本新喜劇を見ることが出来た。いつものように声を出して笑えるほど充実?していたが、最後の最後で意外な経験をした。桜の木の下に埋めたタイムカプセルを掘り起こすという設定だったのだが、最後の最後のめでたしめでたしの場面で、ギターでギャグをする俳優が「さくら」と言う歌を唄ったのだ。何処でぼけるのかと思って聞いていたら、なんと最後まで気持ちを込めて歌ってしまった。他の出演者が「ぼけなかったなあ、いつぼけるんかと思っていたわ」とすかさず突っ込みを入れるくらい正統「さくら」だった。  なんと、しみじみ歌う「さくら」をしみじみ聴いてしまったのだ。嘗て、耳にしたことがある程度の歌だったが、何故か心に深く入ってきた。そこで早速その後インターネットで調べてみた。森山という2世の歌手の歌をユーチューブで聞くことができた。コード進行がシンプルなのでとても分かりやすい歌だった。僕ら素人が歌っていた時代に共通するコード進行だと思った。  この15日に3年間の仕事を終えて帰国する女性の中の1人がとても桜が好きで、3年間桜を見に数箇所連れて行ってあげた。帰国にあたって桜の歌を聞かせてあげれば喜ぶだろうなと思って、何度もユーチューブで聞いて見たが、なかなか覚えることができない。元々新しい歌を覚えるのは苦手だったが、この調子だと帰国には間に合わない。よっぽどのプレッシャーがない限り頑張らない僕だから、もう今日の時点で「無理」そう。  喜劇の中でしんみりと歌われたことで歌のよさが際立ったのかもしれないが、卒業式でサプライズ登場の歌手の歌に涙する多くの女子高校生達の姿を見ていると、いい歌なんだと思われた。偶然の出会いは人間だけではない。森羅万象、人の営みとも又出会いなのだ。