弱点

 硬筆書写と硬筆習字が同じ意味を持つのかどうかわからないが、僕らの世代ではもっぱら硬筆習字と言う言葉を使ったと思う。だから昨日来た、ある建設会社の社長も、その言葉を使ったのだ。  汚い手をしていた。接触皮膚炎だろう。僕は見てすぐ何かに継続して触っているせいだと考えた。ただ本人には思い当たるふしがないらしい。病院でも僕と同じようなことを言われたらしいが、本人は納得していない。そこで彼のために軟膏を3種類選んで使い方を説明しようと思ったのだが、どう見ても適当にしか聞いていないので、紙に書いて持たせようと思った。そして使い方を書き始めたのだが、僕の字を見て姪に「おじさんに硬筆習字を習いに行くように言われえ」と言った。実際、姪も僕の字が判読できなくて困ることが多いので本心は賛同したかったのだろうが笑ってごまかしていた。「なんと書いとるんかさっぱりわからんわ。自分でも読めんのじゃない!」そうなのだ、まず1日置くと自分でも読めない。記憶をたどってなぜそのような塊(字)を書いたかたどらなければ分からない。恐らく高校時代から下手だったから、もう何十年、ほとんど速記状態で来ている。「毎日習えとは言わんけど、週に3回くらい教えてくれる教室を探したら!」ひどく具体的だ。どこで覚えた言葉か知らないが最後には「医療過誤を起こすよ、こんな字じゃあ」と畳み掛けるから僕も蜂の一刺しで「自分みたいに、人生の過誤を起こしていないからええわ」と相手の一番の弱点を突いた。  張り詰めた薬局の風景。