裏目

 思わず「運がない人じゃなあ」と言いかけて言葉を飲んだ。冗談に聞こえてくれればいいが、とりようによっては真実のようにも聞こえるから。もっとも、そんな言葉をかけることが出来るのは、実際には運がない人ではなく、そこそこの人なのだが。さもないととどめを刺してしまう。  何故か僕の漢方薬を飲んでくれている人は繊細な人が多くて、日常抱えている心や身体の不調を正攻法で解決しようとして、自らが撃沈しかけている人が多い。こんな人にも僕は真剣そうには応対しない。真剣そうに悲愴な表情で応対して漢方薬がよく効くのならそうするが、効くのは漢方薬の値段だけだ。真剣そうになればなるほど金額が上がっていく。僕はその理由もあって、全く脱力して応対する。  今日相談に来た人にもその様な対応をした。色々な苦痛を訴えたから、これはきっと何かのたたりだと思って、その原因を探った。「白蛇を殺したんではないの」と言うのは定番過ぎて少し飽いてきたから、今日はひねりを少し加えた。折しも体操の日本選手権?が始まったから、ひねりを試すにはタイミングがいい。  「カワウソに嘘をついたのではないの?カワウソのたたりじゃあ!」「鵜飼いの鵜が獲った魚を横取りしたのではないの?鵜のたたりじゃあ!」  薬局の中が瞬く間に凍り付いた。たまには裏目に出ることもある。