無難

 今日、世にも珍しいものを見た。正直どう表現していいのか分からない。最初は「今日、凄いものを見た」と書こうと思っていたのだが、どんな表現もぴたりと当てはまらないような気がする。  勇気がある人なのだろうか、無頓着な人なのだろうか、単なるずぼらなのだろうか、あるいは逆に悟りを開いて世間を超越して生きている孤高の人なのだろうか。賞賛の対象ではないし、単なる驚きの対象でもないし、軽蔑も出来ないし、結局は無難に無関心を装ったが、こうして今日のテーマにするくらいだからとても無関心ではおれなかった。  今までそれに近い人も見たことがない。ふとした油断でほんの少々というのはあるが、そこまでの人は見たことがない。と言うことは、多くの人がかなり気にしているってことだ。どう見てもそのことに無関心でも良さそうな人でも、余程のことがない限り気を使っている。他の部分ではとても寄りつけそうにない人でも、そこだけは気を使っていると言うことだろうか。不思議だ。  その人を初めて見たのはもう20年、いや30年前にでもなるだろうか。ほとんど無名だった人が突如選挙に立候補して議員になったときだ。品があり、物腰の柔らかい人だった。その後も時々やっては来ていたが、今日のようにテーマにすべきものはなかった。議員を辞めた後静かに暮らしている。だが今日のその人は違った。いつから伸ばしているのだろうか、見るに耐えれなかったからすぐに目を逸らしたのだが、2cmはあった。いやひょっとしたら3cm近くはあったかも知れない。薬局の入り口当たりで見えたときには口ひげかと思ったくらいだったから。でもカウンターの所まで来て処方箋を出されたときに、それが「鼻毛」だと言うことに気がついた。それもほとんど白髪の・・・・見たくなかった。う~ん、今夜はうなされそうだ。