渾身

 これはスクープだ。こんな情報は聞いたことがない。  何と、あの今話題沸騰の富士山を「ただ臭いだけ」と切り捨てた女性がいる。これは彼女の貴重な体験から出た言葉なのだが、同じ感想を持っている人は意外に多いのかもしれない。もっとも彼女は富士山が大好きで、関東のある都市から毎日のように眺めているらしい。関東から見えるというのが僕などには理解できないのだが、時に東京からも見えるというのだから(テレビなどでとり上がれれているのを見る)さもありなんか。 嘗て彼女が富士山の五合目に行ったときの体験から割り出した結論なのだが、臭いが我慢ならなかったそうだ。何とその臭いも人間の臭いだと言うから、体験していない者には分からない。もっともモダンなトイレに慣れている都会人にとってはトイレそのものも原因の一つなのだそうだが、彼女の指摘によるとそれよりも人間の方に原因があるらしい。富士山に登るのは、土の組成によるのか、結構歩きにくくて体力がいるらしい。だからすれ違う人達が一様に汗くさいのだそうだ。特に彼女が行ったのは寒い時期だったらしくて厚着した人達だったそうだから臭いも余計染みついていたのだろう。富士山の唯一の印象がこれだから、いやもう一つあった。  僕は知らないが富士山の名物にメロンパンがあるらしい。それを楽しみにしていた彼女はそれにも又裏切られたらしい。パフパフしていたと言うから想像はつくが、これ又美味しいパンが全国津々浦々で食べられる時代に、パフパフと表現されるようでは、名物とは言えないだろう。優しい彼女は「気圧が低いからでしょうね」と理解を示していたが、もしそれが失敗作ではなく、誰のパンにも共通した印象なら名物とは言えないだろう。  嘗て「富士山は登るものではなく見るもの」と名言を軍人だったおじいさんが吐いたらしいが、その意味を隔世遺伝で彼女が実証している。富士山をこよなく愛する女性の「渾身のレポート」を今日はお届け。