臑に疵

 「診察が止まってしまう」なるほど、それは彼らにとっては大変なことなんだと思った。  偶然息子が帰ってきたから、過敏性腸症候群漢方薬を取りに来ていた親子の相談に乗るように頼んでみた。普段は疲れて帰ってくるから仕事の話は一切しないように心がけているが、その子の落ち込みようが気の毒だったから息子に頼んでみたら快く引き受けてくれた。  二人の話をなるべく聞かないようにしていたから何を話したのか分からない。正に消化器を専門にしている息子が、どの様な対処の仕方をするのか興味はあったが、そこは僕の興味を引っ込めた。その子が治ること、唯一それしか目的はないのだから。  親子が帰ってから、「お父さんの場合は1時間くらい話をする。時には2時間くらい話す事もある」と言うと、それに驚いて冒頭の言葉を返した。確かに多い日には80人くらい診るという彼らにとって、一人の患者に費やせる時間は限られている。まして命に関係ない不調には特に時間をとられる訳にはいかないのだろう。彼らが不親切ではなく、そもそも機能しなくなるのだ。  そうしてみると僕の薬局など打って付けなのかもしれない。暇なのにスタッフは多く、漢方薬という武器も持っている。臑に疵は持っていないが、青春に疵は各々が持っている。特に僕など青春にバンドエイドが一箱くらいでは足らないくらいだ。「調剤が止まってしまう」と格好いいことを言ってみたいが、元々止まっている。止まっていないのは生あくびとため息くらいなものだ。