魅力

 その手の顔つきや態度には慣れている。その上で下手(へた)に迎合したり、下手(したて)に出ることもせず、35年この地で薬局をやって来た。県会議員をして「ヤマト薬局が今だ潰れていないのは奇蹟」とまで言わせた理由の一つにその態度を貫いたこともあるのではないかと今では思っている。 正に働き盛りという世代の男性二人が入ってきた。もうその時点で後に引いているのは分かる。僕が挨拶しても挨拶を返さずに、何やら商品を探していた。その時点で僕は冷めてしまったから、放っておいたのだが、逆に向こうがシビレをきらせて欲しいものを口に出した。頭痛薬が欲しいらしいが、それだけで薬を渡す僕ではない。当然症状を具体的に聞き、アレルギーなどもチェックした。その結果ある強い薬を3日分だけだした。相手はそう言ったやりとりが初めてらしくて、一瞬戸惑ったみたいだったが、僕の迫力に押されたのかその後は素直に、服用方法などを尋ねて、出ていった。僕にとってはごくごく普通の光景なのだが、余所からやってくる人にとってはそうした経験がない人が多い。  翌日、二人が又やってきた。昨日頭痛薬を渡した男性が「あの薬、バッチリでした」と礼を言ってくれた。恐らくその言葉どおり早く快適になってもらえたと思う。それが出来る薬だから当たり前と言えば当たり前だが、たった450円でご自分が想像していた以上の効果を得られたから感激してくれたのだと思う。 翌日寄ってくれたのは、もう1人の男性の健康相談の為だった。髪がばさばさ、白衣は汚れ、Tシャツは褪せている薬剤師を信頼してくれたので、してやったりだが、あいにく相談してくれた症状はまだまだ焦って治療をする必要がないものだった。もっと悪化したら来て下さいと言ったら「3時間半かけてくるんですか?」と二人で笑いながら答えたが、3時間半かけても来た方がいいくらい、この国では潰れてはいけない薬局が潰れてしまっている。若い薬剤師を雇って自分は経営者でいたら庶民の何倍も稼げるようになってから、魅力ある薬剤師がどんどん少なくなっていった。国や病院に逆らわないことが高額所得に繋がるなら、長いものには巻かれ短いものには強く接するだろう。圧倒されるような魅力ある同業の人物には、僕の漢方の先生以外まだお目にかかれない。