一瞬

 それは一瞬のことだった。主役が男子中学生だから、少しくらいは持ちこたえるのかと思うが、よたよたする間もなく、道路上に自転車もろとも倒れた。 僕の前の前の車は、恐らく対向車をやり過ごすために、中学生を抜くに抜けずに徐行していたのだと思う。2台後の僕の車もほとんど徐行状態だったから、そのスピードも想像が付くが、そのおかげで目の前に中学生が倒れ込んできても、急ブレーキを踏むこともなく、何もなかったかのようにゆっくりと立ち去れたのだと思う。  以前からその辺りの段差は気になっていた。舗装工事を繰り返したせいで、側溝部分からかなりの段差で道路部分につらなっている。だから道路と平行に段差が走り、自転車のタイヤをとられるなと感じていた。案の定それが昨日僕の目の前で再現されたわけだが、誰も犠牲にならず、誰も加害者にならなかったことが良かった。

 交通事故は全く悪意が介在しなくても、加害者と被害者が生まれる。そしてどちらもがあまりにも大きなものを失う。生涯そんなことと無縁で暮らしたいが、いつ誰が当事者となっても不思議ではない。行動範囲を狭め、臆病に暮らしていれば被害者にも加害者にもなることはないが、それでは人生は空しすぎる。  その後赤信号を無失して走り去った中学生は、つい今し方短い人生がほぼ終わりかけていたことに気がついただろうか。