転機

 彼曰く、20年振りだと言うのだからそうだろう。第一声の「年取ったなあ」も、それなら許せる。ただ逆も真なりってことは彼は気がついていないらしい。彼の場合、歳より体型の変化の方が僕には目立った。 会って1秒もしない内に話が弾んで、結局1時間くらい機関銃のように話したから、結構親密なんだと今更思った。学生時代に別れを告げて牛窓に帰ってきて知り合った若者が、ほとんど警察官だった。僕の薬局が警察署と近く、若い巡査が良くやってきた。警察官に成り立てと同世代だったので話が良く合い、警察の野球チームに入れて貰ったりしてよく遊んだ。今日訪ねてくれたのは、その中のもっとも親しかった二人の内の一人だ。レンタカーを借りて、高山にいる先輩を訪ねるのに誘ったりして、警察官としていいのか悪いのか知らないが一線を越えそうな関係だった。 実は昨日、警察官は地元の人と親しくなりすぎては業務に差し支えるから、距離を保つなんて話を妻としていた。その時上がったのが彼の名前で、あの頃の家族ぐるみの親密な関係は良かったのかななんて話をしていた。その彼が20年ぶりにふらっとやってきたのだから驚きだった。  ある事情で少しばかり早く辞めたらしいが、さすが30年警察官をしていただけあって、僕の知らないことを一杯知っていた。肩書きを降ろした気楽さもあるのか、あるいは元々の陽気さか、まるでお互い青年のように話した。途中から話の輪に入った妻が「転機が来たのかもしれない」と言った。何となくそんな気もする。懸命に働いた青壮年期に僕らの仲間がそろそろお別れしているのだ。青春期までの責任のない軽い時代が再びやってくるのかもしれない。少なくとも僕にはその時の方が合っていたように思う。