覚悟

 目が輝くとはこういうものを言うんだとつくづく思った。  一度かの国に帰り、自国の国立大学で学び始めたが、専攻が自分に合っていないことを理由に再び日本にやってきた女性と会った。嘗て牛窓で働いていた頃会ってはいるのだけれど、当時日本人との接触をかなり制限されていた関係でほとんど記憶がないくらいの関係だった。だから僕にとってはほとんど初対面なのだが、嘗ての状況と今の状況との差に驚きもしたが、何故か救われたような気にもなった。今でこそ会社の好意で多くのかの国の女性に日本のことや日本人のことを知って貰うチャンスを与えられているが、当時は手を差し伸べることが出来ずに歯がゆい思いばかりしていた。  そういう環境の中でもその女性は一人日本語を勉強していたのだ。長年勉強した英語はなかなか頭に入らなかったのに、何故か日本語はすんなりと頭に入ってきたらしい。彼女は「縁があったのでしょうね」と如何にも日本語が好きな人が好みそうな言葉で説明してくれた。 彼女がこれから学びたいこと、その延長線上に目指していることなどを回転寿司を食べながら聞いた。こんなことでもない限りそんなところには入らない僕だから、かの国の人達のおかげで少しばかり行動的になっている自分に気がつく。そしてもう手遅れの僕とは違い、覚悟を持って異国にやってきて、貪欲に学びを貫く女性の目の輝きに僕は見入っていた。日本人の若い女性とこんなに真剣に話すことがあるのだろうかと、記憶を辿ってみるが、職業上の心や体調の不調に関しての会話以外あまり思い出すことは出来ない。  面白いことに、彼女が僕にあることを提案してくれた。僕の職業を生かした作品を作るようにと言うものだった。牛窓に帰ってきて、何の力もないのに白衣を着て、無気力な日々を送っていた頃そうしたことを不純な動機で試みたことはあるが、価値あるものを生み出すことは出来なかった。今ならこの非生産的な人生こそが主題になりそうだが、想像も創造も苦手な僕だから、かの国の若い女性の覚悟や勤勉に少しでも役に立てればと自分の立ち位置を決めている。