風貌

 お祭りやイベントの時にしか見かけないから恐らく牛窓の人ではないのだろう。地元の人だったら祭りの中に入っていくだろうが、いつも少し距離を保っているからいわゆるお祭り好きの人なのだろう。 その人が今日珍しいことに薬局に入ってきた。薬が必要なほど柔ではなく、寧ろ薬局泣かせの医者泣かせの代表みたいに元気な人だ。その人が昔の珍しい写真があるから忘れない間に僕に渡しておこうと思って立ち寄ってくれたのだ。見ると確かに珍しい写真だった。福山雅治牛窓のヨットハーバーでなにやらしている写真だ。彼の傍に如何にも素人の手作りみたいなイカダがいくつかあった。彼が牛窓に来たことがあるというのは聞いたことがないからおかしいなと思ってよく見てみると、何とそれは30年近く前の僕が写った写真だった。彼が写してくれていたのだろうが、背景から推測すると、仲間と手作りのイカダレースを企画して数年間ヨットハーバーで遊んだ頃のものだ。夏の一大イベントにしようと当時意気込んでいたが、手作りを越えたプロの人達が出場するようになって自然消滅した。当時レースの後には参加者全員でバーベキューを楽しんで盛り上がっていたのだが、その時に写されたものだった。  僕はカメラをもっていないから自分で写すことはないが、写されることも滅多にない。アルバムというものはあるにはあるが、大学生の時から1枚も増えていない。どうしても写さなければならない、断れないときの写真を時々貰うことがあるが、すぐに何処に行ったか分からなくなる。全くと言っていいほど興味がないのだ。それは僕の頭が現在の問題を解決するためだけに働いているからだと思う。だから今日は珍しく嘗ての僕の姿を見たことになる。誰が見ても福山雅治と見間違えそうな姿と現在の僕とのあまりの差に一瞬驚いたが、それは全く自然なことだから、数秒後には驚きは写真と共にどこかの机の引き出しにしまい込んだ。 確固たる目的もなく、ひたすら目の前に現れる問題を解き続けてきたが、写真の中の風貌の乖離は、その淡々とした日々の時間の長さを現している。凡人に出来る精一杯の生き方を後悔するものは何もない。