仲間入り

 両手を合わせてくれたが、こちらが合わせたいくらいだ。 昼に散歩することは滅多にないが、余りにも手持ちぶさただったので珍しく歩いた。途中である方に出会ったのだが、その女性が「この度はお世話になりました」と礼を言ってくれたので、「僕の方こそ有り難かったです」と答えたときの仕草が冒頭の手を合わせる仕草だったのだ。 田舎の老人はいつまでも車の運転をする。行き交う車が少ないこともあるが、交通手段がバス以外にはないので、どうしても車は必需品になるのだ。だから恐ろしいくらい免許を手放さない。どうして事故がこんなに起こらないのか不思議だが、町内の制限時速を低く抑えているのが功を奏しているのかもしれない。  僕の薬局は知っている人も多いと思うが、薬局の前に3台分の道路と直角の駐車スペースがある。薬局に用事がある人のほとんどは一部の用心深い人を除いて、頭から入り、お尻から出ていく。自然と言えば自然だが、出ていくときにお尻から出ると片側一車線だから、走行中の車とどうしても接近してしまう。案外見通しがいいから皆さん余裕を持って出て行っているように見えるが、時にニアミスや急ブレーキが必要な事態も起こりうる。運良く今まで30年間で一度だけの些細な事故ですんでいるが、これからの保証はない。もっともっと高齢の方が日常的に車を運転してやって来そうだから、又最近遠くから来られる人が増えて、その中にはかなりの高齢の方もいるから、頭から入って頭から出ていけるような駐車場があったらいいなと漠然と考えていた。  そんな時に目の前にある家のことを思いついた。持ち主の方は近所に立派な家を持たれていて、もう何十年も空き家状態だが、他にも土地を沢山持たれているようで、殊更処分する必要はなさそうに見えたから、土地を売ってくれるようなことはあり得ないと勝手に決めつけていた。ところが、最近老人のニアミスを目撃してしまったために、急がないと不幸なことが起こりうると思い勇気を出してお願いしてみた。すると僕の危惧を十分理解してくれ、適正な、本当に良心的な値段で譲ってもらえることになった。買い物を済ませた方が車で道路に出、うまく流れに乗るまで気になっていた日常のストレスからこれでかなり解放されることになる。 譲ってもらえることになった土地は100坪以上あるからかなり広い。何の造作も加えない単なる空き地にしておけば、頭から入って、優に中で旋回して頭から出られるだろう。 言葉でわざとらしいもてなしは苦手だから、この程度でお年寄りに優しい薬局の仲間入りをさせて貰おう。