復活

 そう言えば昨日の早朝、母の家に荷物を取りに行ったとき、隣のご主人が戸を開けて自分の家に入ろうとした瞬間に僕に気がついて、一瞬振り返ったまま動きを止めた。とても腰の低い礼儀正しい人なのだが、べつに挨拶をするわけでなくそのまま家の中に入っていった。今考えれば心ここにあらずだったのかもしれない。綺麗に頭を散髪してさっぱりした印象を受けたのも今なら察しがつく。 僕のこの町の情報の多くはクロネコヤマトの運転手さんからだ。毎日牛窓を何回も巡回しているから知らないことがないくらいよく知っている。牛窓の人間より牛窓のことを知っている。  いつものように4時過ぎに全国に発送する漢方薬を集荷に来てくれたのだが、その時にそれこそ隣のおじさんの話が出たのだ。もう何年も前に食堂を閉めているのに今日ラーメンという大きな看板が上がっていたそうだ。元々とても美味しいラーメンだったから、突然の復活劇に、僕も含めて多くの人が喜んだのではないか。ところが残念ながらお店の復活ではなかった。時々あることだが、ひなびた港町を気に入られて映画のロケが行われる。今回もその為の架空の復活らしい。一瞬喜んだが勝手な夢を見てショック状態だった。決して有名ではなかったが、漁師やバスの運転手さんなどに重宝がられていたお店だった。ご夫婦とも体調を崩して仕方なく止められたが、復活を喜ぶ人は多いと思う。興味はそこで尽きたが、クロネコの運転手さんはそこから先の方が気になるらしい。なんでも、仮の復活食堂を訪れるのは、恐竜の名前、なんやらザウルスによく似た男性ばかりの唄って踊るグループのボーカルのたけし?たかし?あつし?と言う人と、剣道の決まり手に似た名前の女優、面川?いや違う、胴川?いや小手川なんとかという人らしい。僕がもう少し若ければ用事もないのに母の家に泊まり込んで寝ずの番をするのだが、さすがにこの年齢になるとミーハーも底をついた。恐らくしばらくの間、その話で持ちきりになるだろうから、ついていけるようにだけはしておこうと思う。  よし、明日から母の家の庭の草を朝から晩まで何気なくむしりまくるぞ。