盆も正月も

 横殴りの雨にはめっぽう弱いから、思い切って防水工事をして貰った。今日の一時の大雨はその成果を試すには丁度よかった。今までなら今日の雨の何分の一かの強さでも雨漏りしていただろうが、さすがに工事終了後1週間もたっていないから、雨漏りの形跡は見つけることが出来なかった。鉄筋コンクリートの建物でも水にはかなわないのか、意外ともろいものだ。 数ある業者の中で今回お願いした業者だけが「雨漏りはむつかしい」と正直に言った。工事が始まってからも難しいと言い続けた。本来なら自信を持って任せてくださいと言うところに頼むのだろうが、僕は逆の行動に出た。何年か前に同じように工事をして貰ったのだが、2年もたてば元の木阿弥だった。雨漏りは難しいという認識はその時の経験で共有できる。だから口先だけで自信ありげなのはもう信じないことにした。難しいから責任を持ちかねると言う方を信じたのだ。 この共通認識は、僕の職業からでも簡単に行き着ける。どんな病人が訪ねてきてくれても「お任せください」とは言えない。いや言わない。難しいものは難しいし、治りにくいものは治りにくい。もっと言えば治らないものは治らない。夢を売ってお金を貰うわけには行かないから、僕は正直に言う。ただ少しでも可能性を感じられるときは、正直に「挑戦させてください」と言う。  嘘やはったりが必要ない職業って、楽しいしとても楽だ。多くを望まなくても信頼を得られることが出来れば、それに相応しい報酬が得られる。溜める方法より使う方法を知らない庶民には相応しい生き方だ。お盆の間、昔ほど帰省客はやってこないし、旅行客も減った。ただそんな中でもとても深刻な悩みの方が普段通りにやってきてくれる。盆も正月もない苦痛を抱えている人が、盆も正月もない薬局に来てくれる。