根こそぎ

 牛窓から町外に出るには、北回りと南回りの2本の県道がある。この1ヶ月の間に一番近い街にそれぞれ、巨大な電気屋が2軒、ホームセンターが1軒、ドラッグストアが1軒オープンした。今まででも十分事足りていたが、何故かしら出店ラッシュになった。今日休日を利用して全ての店を回ってみた。嘗て僕が利用していた店舗は、新店舗のすぐ傍にあるのだが、案の定いつもより駐車している車の数が圧倒的に減っていた。これから競争が始まるのだろうが、もう勝負はついているように見えた。いずれの店舗も全国展開している店舗で圧倒的な規模の差がある。  電気屋もホームセンターも、巨大で品物は多いのだろうが、欲しいものは何もなかった。勿論昨日まで欲しいものは何もなかったのだから、店舗を回遊して欲しいものがそんなにたやすく見つかるとも思えないし、無駄な出費はしない質だからそもそも買う気でものを見てもいない。  印象に残ったのは、どの店舗も従業員がやたら多かったことだ。目に付きすぎるくらいいて、すれ違うこと数多だ。これだけの従業員を養い、オーナーの巨万の冨を築くにはどれくらいの売り上げを必要とするのだろうと下世話な想像力を働かせたりするが、根こそぎ地域の百姓や漁師や労働者が懸命に働いて得た金を中央に持って帰るのだろうと思うと、何か空しくなる。生産の分野が置き去りにされ、消費の分野だけが華やかな時世に一抹の不安を感じた。  あんなに華やかな店舗で、ちょっとした修理を頼んだり出来るのだろうかと考えながら運転して牛窓に入ったあたりで、つい最近電気屋さんを閉めた主人がジャージ姿でウォーキングをしていた。奥さん曰く、もう年だから仕方がないと言う理由の前にこんな現実もあったのだろうか。華やかな店舗の進出で又捨てられる家電が増えるような気がする。捨てられる小規模店の経営者と共に。