冥利

歯医者さんの待合室で10年ぶりくらいにある女性と会った。その女性がしきりに礼を言ってくれるのだが、普通の人とは観点が違う。お礼の内容は、当時フラフラしていたのを治してあげたことではなく、治れば薬は止めればいいと言ったことに対するお礼だった。大きな病院を二つハシゴして原因が分からなかったのだが、それが治ったことよりも、ずっと薬を飲むことなく過ごせたことに対するお礼だった。僕はいつもの口癖で「治ればやめればいいじゃない、どうせ薬を飲むのがたいぎに(億劫に)なるよ」と言っていたら、それを良く覚えていて実行したらしい。以来その症状はもとより他の不調も出ていないらしい。「毒を身体に入れなくてすんだ」と何回か繰り返したが、現代薬は決して毒ではないことは言っておいた。数え切れない人達がその恩恵にあずかっているのだから。ただ時に経済が優先されがちになるって欠点ははらんでいるが、それを言えば漢方薬だってしかりで、時にカリスマを自称する人達がべらぼうな値段を要求するみたいだし、逆に何も分かっていない漢方薬の「売り手」もべらぼうな値段を請求している。 彼女の名前は幾度かあれっと思う場所で目撃していた。体調が良くなってからは助産師の経験を生かして「命」についての講演を学校を含め色々な場所で行っていたらしい。職業柄無駄な薬は飲む必要はないと思っているのだろうが、その考えと僕の考えが偶然一致したのだろう。当時講演をして回るような方になるとは想像できなかったが、今では落ち着いた自信を醸し出している。どんなことが人の役に立てるか分からないが、縁のあった人が活躍している姿を見ることが出来るのは、漢方薬局屋冥利に尽きる。